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カープ打線が脅威なワケ。石井琢朗「ゲームで重要な、あとづけ論」

広島カープ・石井打撃コーチが取り組んだ「打線」改革

■.4 マイナス志向が生む最高の結果

 例えば、ノーアウト満塁って場面に出くわした場合。バッターとしては「ゲッツーを打っちゃいけない」という思いがよぎります。そしてノーアウト満塁で相手内野陣がセカンドゲッツーの体制を敷いていて、まんまと内野ゴロゲッツーを打ってしまった。打席内容としては、はっきり言って0点かもしれない。けれども、チームとしては1点入っていますからね。

 選手個人の成績としては得点圏打率も、打率も下がる。査定的にはマイナスかもしれないけれど、仮にその1点で勝ったとしたらそれが決勝点なわけであって、打撃内容は0点かもしれないけれど、チームとしては100点だよね、ということです。

 ほかにも、実はやっている側にとってノーアウト1、2塁というのは一番得点がしづらいイメージがあります。そこでゲッツーを打ってしまってツーアウト3塁になったとしたら結果としては最悪です。でも、そこで三振をしてワンアウト1、2塁となっても状況は、前と変わらないですよね。ツーアウト3塁のほうが、もしかしたらパスボールで1点取れるかもしれないし、エラーでも内野安打でも1点取れるかもしれない、という状況を作っているわけですから、守備にプレッシャーを与えられているわけです。

 だから三割以外にも勝つ方法ってたくさんあるんですよ。これって完全にあとづけ、です。結果的に点が入っただけだったりします。でも、それをチームとして評価してあげよう。それが積み重なることが、僕の言う、つなぐ、ということです。

 おもしろいのは、これが実は最高の結果を出すためにプラスに働くんです。マイナスから入ることで打席の中で気持ちに余裕ができて、最低限が最高の結果になったりするわけですよ。そんなシーンは、それこそ昨年たくさん見てきました。

 残塁が多くてもいいし、得点圏打率が低くてもいい。まあ、それは少なくて高いにこしたことはないんですけど、でもそこでゲームの勝敗は決まりませんからね。つなぐカープの打線、そんな目線で見てもらえたら、フィールドの中に今までと違った景色が見えてくるかもしれません。

 とはいえ、その攻撃が全てだとは思っていませんし、去年が良かったからといって、今シーズンも昨シーズン同様の戦いができるとも思っていません。相手も研究して来るだろうし、事実、攻め方も変わってきています。一進一退の厳しい戦いが続くのは必至で、その攻防の中でまた新しいものが見つけられればと思っています。
関連:石井琢朗コーチインタビュー「赤松には本当に助けられた」

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石井 琢朗

いしい たくろう

広島東洋カープ1軍打撃コーチ。1970年8月25日生まれ、栃木県佐野市出身。栃木県足利工業高等学校在籍2年時に夏の甲子園にエースとして出場。1988年、ドラフト外で横浜大洋ホエールズに投手として入団。高卒1年目でいきなり初先発初勝利を挙げるものの、野手への思いが捨てきれず1992年から内野手に。以降、攻守の要として活躍。1998年には不動の一番打者として最多安打、盗塁王を獲得。チーム38年ぶりのリーグ優勝、日本一に貢献する。2009年に広島東洋カープに入団。2012年からはコーチとしてカープを支え、25年ぶりのリーグ優勝に貢献した。著書に「心の伸びしろ」「過去にあらがう」(前田智徳・鈴川卓也と共著)などがありいずれも大きな反響を呼んだ。


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